夕暮れの二人
久しぶりに部活のない日曜日。
晴天に恵まれ、黒子は恋人である火神と休日デートを楽しんだ。
午前中はスポーツセンターで買い物。午後はストバスで1on1を楽しんだ。
今は夕暮れ。黒子と火神は沈みゆく赤の太陽を視界の片隅に映しながら帰路に歩を進めている。
春の寒暖差は大きい。あんなにも暖かかった日中に比べ、夕暮れの今はとても涼しい。
黒子は薄手のカーディガンとシャツという軽装だったため、少し肌寒さを感じていた。
久々の火神とのデートという事にばかり気を取られ、少しばかり浮かれ過ぎていた。
そんな事を火神に知られてしまうのは恥ずかしいし、彼に心配を掛けてしまうと思い、無表情な表情を更に意識する。
「おい、黒子。」
「・・・、あっ・・・は、はいっ。」
表情を崩さぬよう意識し過ぎた為に、火神に呼ばれた事にコンマ数秒気づかず、呼ばれた事に気づき返事をした声は少し上擦る。
黒子は焦ったように火神の顔を覗くと、黒子を見つめていた火神の双眸とぶつかった。
火神の精悍な顔立ちが夕暮れの赤に染まり、更に増した男らしさを感じさせる。
黒子は思わず頬を薄らと紅潮させた。
ふと火神は歩を止める。
「ほら。」
彼に見とれていると、不意に火神の歩が止まった。
そして、何かが肩に乗る感覚を感じた。
「えっ。」
それは火神が羽織っていたベージュのマウンテンパーカー。
彼の大きな体躯を覆っていたパーカーは黒子にはあまりに大きく、肩から落ちそうになっている。
黒子はそれに気づき、火神を見上げると、彼の上半身は半袖のTシャツが一枚になっていた。
「ちょっと冷えてきたし、さ。俺は体動かして暑いし。」
着てろよ、と火神は頬を少し赤に染め、黒子から視線を逸らしながら小さく呟いた。
そんな火神の姿に、黒子の胸はキュンッと高鳴る。嬉しい。とても嬉しい。だけど。
「それじゃ、火神君が冷えちゃいますよ。」
火神は誠凛高校バスケ部のエースであり、僕の大切な恋人である。
そんな彼の身体が心配であり、負担になりたくない。
「気にすんな。それに・・・お前にしてやりたい事は何だってしたい。」
それって恋人の特権だろ。
「・・・っ」
逸らされていた火神の双眸が黒子を見つめ、染めた頬をそのままに彼は眩しい笑顔を浮かべた。
彼の科白に黒子の胸が熱くなる。顔に熱が集まるのが止められそうにない。
なんて甘いんだろう。なんて嬉しんだろう。なんて幸せなんだろう。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて・・・。」
黒子は恥ずかしそうに頬を染めながら、火神のマウンテンパーカーを身体に引き寄せた。
火神の香りがする。火神に抱きしめられているような錯覚を感じる。
「行くぞ、黒子。」
火神はそう告げると、再び歩を進めだした。
彼の後ろ姿が黒子の瞳に入る。上半身の半袖姿がやっぱり寒々しそうだ。
「あのっ。・・・その・・・」
黒子は小走りで火神の横に追いつき、躊躇しながらも自分の指を火神の指に絡め、ギュッと握った。
「少しでも温かさが伝わればと思いまして。」
「黒子。」
頬を熟れたトマトのように真っ赤にさせて恥ずかしげに俯く彼が、愛おしくて堪らない。
自分のできる事なら彼の為に何でもやってやる。してやりたい。そんな気持ちが込み上げる。
気持ちが高ぶり、繋いだ手に力が入った。
「・・・あのさ。このまま俺の家に来ねぇか?あったかいココア入れてやっから。」
「はい。ココア、楽しみです。牛乳も入れて下さいね。」
甘い誘惑を断ることなどできず、黒子は相貌を柔らげてそう応えた。
火神は優しい眼差しで黒子を眺めながら、自信満々そうに口を開く。
「了解。任せとけ。」
夕日が沈み行くのを正面に見ながら、黒子と火神は火神の家に向かって歩いていく。
強く繋がれた手はそのままに。