匂いの話




放課後の教室。

黒子と火神は当番である掃除を終えた頃には教室には人気がなくなっていた。
黒子は部活に行く準備をしていると、火神の手が黒子の頭に伸びた。

火神は黒子のベビーブルーの髪の毛をよく撫でる。
頭を触れる火神の手はとても大きい。僕の頭を片手で鷲掴みできてしまう程。
だけど、その大きい手は僕の頭を優しく撫でる。

「黒子の髪って柔らかいな。サラサラもしてるし。」

「俺、好きだなー」と火神は口元を優しげに緩ませながら、呟いた。

褒められているのかは分からないけれど、火神の甘く優しい表情を覗いた黒子は頬を赤に染めた。
髪のことであれど、自分に対して火神が「好き」と言った。
好きな人に好かれていると思うと、とても嬉しい。
そのことを意識すれば、胸の鼓動が高鳴る。頬に熱が集まる。思考回路が鈍くなる。

「ん?お前の髪、甘い匂いがする。」

火神は黒子の髪が漂う香りに気づき、顔を黒子の髪に近づけ匂いを嗅いだ。

「バニラの優しい匂いだな。」

「あの、火神君。僕、香水なんてしてませんよ。」

上擦った声になってないか不安に思いつつ、できるだけいつものように言葉を返す。
火神はそれを聞いているのか聞いていないのか、黒子の髪に更に顔を近づける。
鼻をスンスンとさせている火神はまるで動物のようだ。
バスケの試合で見せる獰猛な虎の風格というより、人懐っこい大型犬のようだ。
ただ、人懐っこいには語弊があり、黒子のみに懐いているということだ。

「んー、つーか。」

火神の顔は黒子の左側の首に流れ、そこに顔をそっと寄せる。

「黒子の匂い、って感じだな。」

耳元に響く、低く掠れた声。大好きな人の声。
耳が甘く痺れ、心臓の鼓動が更に早くなるのを感じる。
あまりにも近くにいる火神のツンツンとした髪が首元に当たる。
いっそ自分もその髪に手を沿わし、撫でてみたい。

火神のスンスンと鼻が鳴った後、首に生暖かい何かが自分の首を這った。
それが火神の舌だと気付いた瞬間、思わず体をビックと跳ねさせた。
何の前触れもない行動に、頭がパニックで、真白だ。

「わりっ。」

それに合わせて火神も顔を黒子からパッと離した。
その顔にはバツな悪そうな表情が浮かんでいる。先程の事は火神も無意識だったらしい。

「お前も甘い味すんのかなって思ったら」

気づいたら舐めてた。

「何ですか、それは。」

あまりにも火神らしい返答に、黒子は脱力した。

「人間には甘い味の人なんていません。火神君は馬鹿ですか?」

平静を装い、無表情で無感情の声で火神にそう言うと、
火神は「馬鹿って言うなよ、馬鹿って」と拗ねたような声で呟いていた。

首元には熱を感じ、鼻には火神の爽やかな匂いが離れず、頬染める赤はまだ引かない。

火神の顔をまだ見れそうにない。



ありがちな甘いお話です(笑)